ざよなら、東京

ドイツで行われるドイツ人観客のためのニホンをテーマにしたショウ。いろんな意味で笑えるところがありますが、見どころもあります。

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幻のヴァリエテへの出演

こちらは、ただ今ベルリンのヴァリエテ(イロイロなパフォーマンスのショウを上演する劇場)で上演中の、ニホンをテーマにしたショウ「SAYONARA TOKYO」のプロモーション映像です。

それにしても、なんというダサいタイトル。

きっと、老若男女すべてのドイツ人が知っていそうなニホンゴの単語を並べたら、こういう感じになってしまうのでしょう。同じタイトルの英語の歌は存在するようなので、ひょっとしたらショウの中で歌われているのかもしませんが。

余談ですが、我が国において日本人によって演出された日本人観客のためのショウだというのに、無意味にエーゴ・タイトルを冠したモノが多々催されている気がします。「SAYONARA TOKYO」はドイツで行われるドイツ人観客のためのショウですが、ニホンをテーマにしているので、ニホンゴのタイトルをつけるのはごく妥当なことでしょう。しかし、日本人向けの催しについているエーゴのタイトルは、敢えてエーゴにする意味があるわけでもない限り、ネイティブから見たらきっとダサさ満点なんだろうなーと筆者は常々思っております。観客はホボ日本人なのだから、美しい日本語で日本語話者の心に響く素敵なタイトルをつけることにもっと尽力したらいいのに。

そんなことはともかく、なぜ筆者がドイツで興行中のこんなキテレツなショウの存在を知っているかというと、実はちょうど1年前、このショウのキャスティング担当者から連絡をいただいたからです。しかし、面識はまるでないのに自分はドコのダレとろくに名乗りもせず、何のために連絡したのかも特に語らず、「アンタのパフォーマンスのフル手順の映像を送ってくれ」というだけの随分簡素なメールでした。

メールの送り主の名前をぐぐってみると、ベルリンにある老舗シアターのキャスティング担当者であることはボンヤリわかりました。それにしても、この不躾さはいったいなんなのだろう、イヤ、知らないこっちの方がむしろ無知すぎると揶揄されるべきであるほどの有名人なのダローか、イヤイヤ、仮に偉いヒトなのだとしても、だからこそ感じよくするべきだよね…と引っかかる部分がありました。ベルリン在住のパフォーマーに訊ねてみたところ「個人的にはその人のことを知らないけど、あんまり愛想のいいヒトじゃないらしいよ。でもその人の目に止まったなら、ものすごぉぉぉく、いいチャンスだと思う」とのことでした。

いくら相手が不躾だとはいえ、同じ不躾で返しても詮無いことなので、まず自己紹介を求め、何のために映像が必要なのか、またどうやって筆者の存在を知ったのかを知らせてくれるよう、丁寧すぎるほどの文章で返信しました。

すると程なくお返事が来ました。ひょっとしたら英語が苦手な方なので図らずして不躾になってしまったのかも、と斟酌すらしたのですが、ごくまっとうな英語でした。まー外国人アーティストのキャスティングをしている人が、今更英語が苦手って、ありえんよね(^_^;)

まず、筆者のことはドイツ国内の別のシアターのスタッフから聞いたとのこと。10年ほど前、筆者は件のシアターが主催した新人オーディションのようなショウに出演したことがあるのです。実を言うと、メールを送ってきたベルリンのシアターには、プロモーション素材を送付したり、はたまた直接足を運んで手渡したことすら何度かありました。おそらく目も通さずに捨てられたのだと思われますが。

映像を見たい理由としては、日本をテーマにした日本人パフォーマーのみで構成されたショウを企画中だから、とのこと。もし該当期間に出演可能なら映像を送ってほしい、と。

こんな基本的なこと、最初の問い合わせ時に書いてよね(^_^;) というか、書くよね、フツー。

フル手順の動画は非公開設定でオンラインに上げてあるので、メールの送り主のみが見られるように設定してその旨を知らせました。しかし、その動画の視聴回数が増えることはなかったので、結局目を通しもしなかったのではないかと思われます。

その後もう一度だけメールが届き「キャスティング会議にもう少し時間がかかりそうなので、予定空けといてね、できるだけ早くまた連絡するから」と書かれていました。さらに「もし同じ時期に他からオファーがあって決断に迫られるようなことがあれば早く結論を出すように促すから」とまで書かれていました。当初の不躾さにしてはこちらに関心がある様子。しかし、残念ながらコレ以降は一切連絡がありませんでした。

これまでこういったショウへの出演のお話はいくつかいただいていますが、とりわけラテン系のヒトビトには先方の都合でさんざん振り回された経験があり、かなり辟易していました。それに対し、ドイツ語圏の方々と仕事をした時は実に気持ちよく過ごせました。契約自体がきちんと成立するのはもちろん、成立前後のやりとりはとても丁寧で、書類の準備や支払いも完璧。出演前後も実に手厚くケアしてくださったのです。しかし、今回は始めから終わりまでこの体たらく。ドイツ語圏の方を信頼していただけに、少しがっかりしました。こちらも先方の要求に対して、時間をかけてメールの文章を練り、誠実に対応した自負はあります。何かアクションを起こして注意を向けさせた以上は、結果をきちんと連絡していただきたかったですね。

とはいえ筆者も、しばらく後に「そういえば連絡ないな~、まーおそらく私の出演は無かったことになったんだろうな。あー、いろんな意味でガッカリ」程度に思い出し、以後すっかり忘れておりました。つい先ごろふいに記憶が蘇り、シアターのWebサイトを見てみたら、ちょうど公演が始まったところで、件の動画が掲載されていたわけです。

ドイツで行われるドイツ人観客のためのニホンをテーマにしたショウ

動画を見てみると、予想通りではありますが、いかにも外国人が考えそうな、ちょっとズレたニホン的世界観が展開されていますね。キャッチコピーが「芸者・たまごっち・エーデルワイス」って酷い…(^_^;)てか、なんでエーデルワイス?(出演者の中にヨーデル歌手がいるからか?)

そして日本では聴いたこともない日本語の歌がBGMになっています。一回目に動画を見た時は、歌い手が誰なのかまったく思い当たらなかったのですが、しばらく後に知人がピチカート・ファイヴについてSNSで言及していたのを見て、はたと「あ、あの声、あの歌い方は!」と気づきました。

ピチカート・ファイヴの曲は日本より欧米で人気があるそうです。世界観がオシャレ過ぎて当時の日本人にはまだ早かったのだ、という評価も見られるようですね。事実、筆者はヒットした2~3曲くらいしか知りませんし、それらについても「え、何このヘンな曲。気持ち悪い歌詞」と違和感を覚えていました。ズレたニホン感という点では妥当な選曲といえるかもしれません。

選曲もさることながら、あらゆるものが我々の感覚からはズレていてちょっと笑えます。「日本的なモノ」と意識して日本人デザイナーが関わったとしたらまずありえない派手な色使いの大通具や衣装。恐らく「ゲイシャ」のつもりなのでしょうが、劇場内の装飾として歌舞伎の女形と思しき肖像写真が舞妓さんと同列で並んでいたり。文字のようでありながらなんだか読めない、大道具に書かれたニホンゴ。縦書き文字の長音記号が横向きなのは、わざとなのでしょうか、それともタイポなのでしょうか。そして劇場付属のダイナーから供されるのはビミョウに不味そうなお寿司。

とはいえヨーヨーを披露するのび太(本当に得意なのは射撃とあやとり)や、踊り狂うゆるキャラ(っぽい被り物の群)、歌舞伎の舞台で使われる振り落とし幕など(某国からやいのやいのといわれそうな、巨大な日の丸が描かれている)、ツボを抑えた演出もあります。日本人から見たら違和感を拭えない部分は多いものの、テーマに合わせてかなりの作り込みをしていそうで、それなりに出来の良いショウであると思われます。パフォーマーたちはショウに合わせて演技をアレンジしているようなので、演出する隙がほとんどなく融通が利かない筆者のパフォーマンスをこの中に入り込ませるのは、やはり難しかっただろう、とも思います。

そういえば、来月は本場のオクトーバーフェストが始まります。暇だし、ビールを飲みがてらドイツを南から北まで旅するのも悪くないカモ、と思ったり。どなたか、お付き合いいただけませんか?